こがクリニック 院長 古賀 正哲

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心不全について

 以前、外国から日本にみえた医学関係の方に、日本では心不全の患者さんは何科の先生が観てくれるのですかと聞かれたことがあります。一瞬質問の意味が分からなかったのですがよく考えてみるといわゆる循環器を専門にしている内科の先生はそれぞれ研究、興味の対象が限られているようです。すなわちエコー(超音波診断装置)が専門の先生は診断については一生懸命ですが治療にはあまり興味がないように見えます。心臓カテーテルが専門の先生は狭心症や心筋梗塞の治療、いわゆるフーセン治療には熱心ですがそのほかの治療にはあまり熱心ではないようです。不整脈が専門の先生は同じくカテーテルで行うアブレーション(カテーテルの先の電気メスで不整脈の原因となる心筋を切除する手術)やペースメーカーの移植に懸命という具合です。先の質問は、日本では一般的な心不全を専門に治療、研究している人が少ないという意味なのでしょう。
 心不全とは心臓が悪くなって日常の生活に支障がある状態です。原因、分類も多様です。心臓は大きく分けると肺に血液を送り出す右心室と体全体に血液を送り出す左心室とがあり、通常心不全といえば左心室の機能不全を指します。左心室の機能が低下した状態では血液が左心室から体へ駆出されにくくなり、結果として肺に血液がうっ滞してしまいます。症状としては肺に水がたまったり(胸水)、ちょっとした運動でも息が切れて呼吸困難となります。重症になると仰向けになると余計に肺に血液がたまるので息苦しくなり、座った状態でないと眠れないようになります。また、体を巡る血液が少なくなるので、手足の先が冷たくなり、血管も細くなります。
 また、心臓はポンプ機能(血液を送り出す機能)が低下すると心室の筋肉を太くして代償しようとするので心臓の肥大が起こり、胸のレントゲン写真で心臓の陰影が大きくなります。心陰影が大きくなるのは心不全の比較的初期の兆候でもあるので、私たちが検診でレントゲンを診るときは肺だけでなく、心臓の陰影にも注意しています。また、一回の拍動で送り出す血液が減少するので少ない血液量を回数で補うために脈拍が速くなり、頻脈になります。
 心不全の病状はこのように多彩ですが、患者さんの重症度を簡単に把握するのに米国の基準であるニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類がよく用いられます。これはわかりやすい基準で心不全の重症度を軽症の1度から重症の4度まで分類したものです。すなわち1度は日常の生活で呼吸困難や胸痛、動悸などの症状が起こらないもの、2度は軽作業では症状が出ないが階段を登ったり、坂道を歩くと症状がでるもの、3度は安静時には症状が無いが軽作業では症状がでるもの、4度は安静時にも症状がでるもの、としています。
 心不全の原因はさまざまですが心臓の弁膜症が原因の場合は、病気の進行のある時期で手術を決断しないと手遅れになります。この手術時期を決定するときにNYHAの分類が用いられます。一般的にいって手術をした場合のリスクと放置した場合のリスクを秤に掛けて手術をするかどうかをきめますが手術のリスクはNYHA4度の患者さんに手術をした場合で40から60%、3度で90〜95%、2度で98%ぐらいの成功率と考えてよいでしょう。従って、年齢や病状にもよりますが通常は2度から3度に移行する時期に手術するのがよいとされています。
 心不全の原因は多彩ですが弁膜症などは手術して、弁を入れ替えたり、形成したりすると根本的な治療が可能です。手術がうまくいった場合、NYHA分類で2度ぐらいの改善が期待されます。つまり手術の前にNYHA分類が4度の人は2度へ、3,2度の人は1度へ改善することが期待されます。1度だと普通の人とほとんど同じということで、トライアスロンにでたりする人もいます。映画俳優のアーノルド・シュワルツネッガーも数年前に大動脈弁の手術をしましたが、アクション俳優や政治家として活躍中です。
 一方原因が不明であったり、原因は分かっていてもそれに対する治療法が無いと根本的な治療はできません。拡張型心筋症や重症の心筋梗塞後などによる心不全の場合は治療法が無く対処療法のみとなります。ジギタリスや利尿剤、強心剤などを処方することになりますが、これらの治療を駆使してもやがて病状が進むとNYHA4度となり、寝たきりとなってしまいます。この状態で唯一の治療法は心臓移植です。
 移植には患者さんの心臓の代わりとなる心臓が必要です。脳死した人から摘出した心臓を移植する場合を同種移植、サルやブタなど他の動物から摘出した心臓を移植する場合を異種移植、機械で作った人工心臓を移植する場合を人工臓器移植といいます。日本でも数年前から脳死した人からの移植が可能となりすばらしい成績を残していますがまだ治療を必要とする人の数に比較すると行われている移植は非常に少ない状況です。このさき日本では異種移植や人工臓器移植のほうが盛んになるかもしれません。また、根本的な治療ではありませんが拡張した心筋の一部を縫い縮めることにより一時的に心機能を回復させるバチスタ手術も行われています。

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